
インタビュー
2025.03.11
レストラン カンテサンスのシェフ 岸田周三さんが考える、
「おいしさ」の作り方
2006年、31歳で東京にフランス料理「レストラン カンテサンス」を開業以来、18年連続で三つ星を維持するシェフ、岸田周三さん。このたび、料理人と企業をつなぐウェブプラットフォーム「TasteLink(テイストリンク)」に加わっていただくにあたり、職業としての料理人の魅力や、今後取り組んでいきたい、料理人のキャリアがあるからこそできる「仕事」について語っていただきました。

戸門:岸田さんが今後いろいろな企業とのお仕事をするにあたって、連携したい企業やブランドはありますか?
岸田:自分の店で使っている道具は、胸を張っておすすめできます。何がどうすごいのか、なぜそれを使っているかすべて説明できる。大手さんもあれば職人さんの顔が見えるブランドもありますね。調理道具やカトラリー、ワイングラスや使っている包丁など一つ一つにこだわりがあります。
戸門:かつて、時計のブランドとお仕事されていましたね。
岸田:色々な業種の方から仕事の依頼はいただきます。
自分自身が職人だからというのもありますけど、職人さんの仕事が好きです。
たとえば時計や靴には、職人さんのこだわりがあって、その人たちとお話をする機会があると、なるほどこういう考え方をしているからこういうこだわりがあるのだという学びがあります。だから靴は、職人さんの顔が見えるブランドが好きですね。ビスポークをやっているようなブランドは、職人さんと直接話す機会もありますから、面白いですよ。
残ってほしい食材にスポットライトを当てたい
戸門:食材や調味料などで、興味があったり、推していきたいものはありますか。
岸田:今推したいものの一つは和三盆ですね。
和三盆は甘さの余韻が違うんですよ。今、和三盆を作ってるメーカーは多分4社ぐらいしかないのですが、もう絶滅しかかってるんですよね。
なので、そういう意味では、日本の伝統文化である和三盆の文化が失われていくのはとてももったいないと思っています。他の素材の中で消えていく素材である砂糖を人に薦めるのは難しいのですが、そういうものにスポットライトを当てるのが僕たちの仕事だと思っています。
戸門:さまざまな食材に日々接しているシェフだからこそ、その食材のどこが良いかが明確にわかるというのはありますよね。
岸田:おいしいと感じるとき、人は過去の自分の記憶と照らし合わせて「おいしい」と感じます。でも過去に食べたものとの比較だと、何がどうすごいのか、曖昧にしかわからないんです。食べ比べてみれば、たぶん誰でもそのすごさはわかるんですよ。
僕たちは日々多くの食材に接するので、素晴らしい食材がたくさんあることを知っています。オリーブオイルやワインにも、小規模な生産者だから難しいかもしれないですが、応援したい国産のメーカーがあります。
あまり知られてないけど素晴らしい食材は、世の中にもっと知られてほしいと思いますね。

「この人のニンジンが素晴らしい」を選ばせてほしい
戸門:食材の中でも特に農作物のプロモーションだと、自治体などが力を入れていることが多い一方で、自治体の希望とシェフ側の考えのギャップがどうしても出ますよね。
岸田:自治体などでお仕事をいただく際にお願いしたいのは、たとえばニンジンなら「この人のニンジンが素晴らしい」というのを僕に選ばせてほしい。こういう場合、いいものも悪いものも公平に宣伝しがちなんです。
公平かどうかはお客さんにとっては関係ないですし、一番はこの人だというのを選んだ方が生産者側にとっても良いと思います。
たとえばその人がスターになって、みんなもああなりたいって思えたら、そこには夢があると思うんです。
戸門:シェフになる間口は、誰に対してもフラットに開かれていますよね。
岸田:日本の飲食業は、参入障壁が非常に低い世界ですね。
どんな方でも参入できるということはすなわち、ライバルが多く競争が激しいということ。しかし同時に、コネや一部の既得権益者によって成功が決まったりしない、公平な世界だともいえます。ステルスマーケティングなども、短期的な効果しか出ません。
最終的に人より上に行くためには、人より努力するしかないものだと思います。

レストランと家庭料理の「おいしさ」、それぞれの違い
戸門:料理はレストランでも家庭でも作りますが、それぞれのおいしさのベクトルは、おのずから異なるように思われます。岸田さんはそれぞれの「おいしさ」について、どのように捉えていらっしゃいますか?
岸田:僕たちの作るレストランの料理は非日常的なものです。一般の人が仕入れることができない食材を仕入れて、高度な技術を使う点で、家庭では再現できない部分が商品価値であり、わざわざレストランに行く意味になる部分です。
一方で、家庭での料理はさまざまな制約があるなかで毎日作らなければならなくて、食材もあくまでもスーパーで手に入るものが基準になる。でも、家庭では手間ひまをかけることによっておいしさは作れると思います。
食事は毎日するものですから、いろんな制約や求めるものがあります。
時間や費用など色々なものが必要なわけですから、それにあったおいしさを探していけば良いのかなと思います。
毎日フランス料理を食べる人はいないと思いますし、家庭料理の素晴らしさおいしさを理解した上で、フランス料理にはフランス料理なりのおいしさがあります。
僕たちは、そういうものを求めている方々のお役に立てれば良いなと思っています。

Text by 星野うずら

フランス料理・Quintessence(カンテサンス)
岸田 周三
Shuzo Kishida
愛知出身でフレンチレストラン「カンテサンス」を主宰。フランスの三つ星レストランで修業後、帰国して自らの店を開業。「素材と対話する」を信条に、顧客ごとに最適な料理を提供するスタイルを確立し、連続してミシュラン3つ星を獲得。予約は3ヶ月待ちの人気を誇り、持続可能な食文化にも貢献している。